大菩薩峠の事

冠省御無沙汰に打過ぎて居りまするがお変なき事と大慶に存じます。扨ていろ/\御無理を申して御煩せしてからもう三年に近くなります、小生が御音信をしたり、御訪ねをすると屹度《きつと》大人のお煩ひになることを恐れますが、でも小生の止むに止まれぬ願を更めてお胸にお止め下さいまし、あれからとても諦めねばならぬ事と押へ忘れ様とつとめて長い月日が立ちました、でも絶えず私の頭の中に往来するのをどうする事も出来ずに歯を喰ひしばつて我慢をして来ましたが、今年は私共新国劇も愈々満十周年を数へますので、いさゝか其紀[#「紀」に「(ママ)」の注記]念を致したいのでございます。で其紀念興行(六月)を催すに何よりも吐[#「吐」に「(ママ)」の注記]胸を突いて来るものはお作大菩薩峠の事でございます。私は過去の一切に就いてお心にそまなかつた事を更めて陳謝いたします。どうぞ私共の苦闘十年にめでゝお作上演をお許容下さいまし。只管《ひたすら》に願上ます。これまでの行がかり上いろ/\な方面への責任等は総べてを私が背負ひまして御迷惑はかけますまひ、一度拝眉心からお願したいと存じて居ります。[#地から1字上げ]頓首  三月十一日早朝[#地から3字上げ]沢田正二郎[#ここで字下げ終わり]

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